Q.父と母の両方から贈与を受けたいと思っています。2人から贈与をうける場合の「相続時精算課税制度」の適用関係はどうなりますか?
A.父、母ごとにそれぞれ「相続時精算課税制度」と「暦年贈与課税制度」を選択することができます。両親共に同じ制度を選択しなくてもかまいません。
(1) 父と母を分けて選択が可能
「相続時精算課税制度」の要件は、贈与を受けた年の1月1日において65歳以上の親から20歳以上の子への贈与となっています。父と母の両方とも65歳以上であれば、20歳以上の子は、父、母各々ごとにこの制度を選択できます。従って、父との間では、「相続時精算課税制度」を選択し、母との間では、なんら選択しなかった場合には、母との関係は「110万円非課税枠の暦年課税」のままでいることになります。当然、逆のケースもありえます。すなわち、贈与をうける子がこの「相続時精算課税制度」の選択について父、母各々について取り決めればいいわけです。
(2) 父、母の両方から相続時精算課税制度の適用を受けたい場合
「相続時精算課税制度」の適用を受けたい場合は、その贈与を受けた年の翌年3月15日までの間に、贈与を受けた子が、その子の所轄の税務署へ選択の届出書を贈与税の申告とともに提出することにより、この制度の適用を受けることができます。父と母の両方から同一年に贈与を受け、この制度の適用を初めて受けようとする場合は、選択の届出書は、当然父と母の2つの届出書の提出が必要となります。
(3) 父、母のどちらか一方のみ相続時精算課税制度の適用を受けたい場合
両親から同一年に贈与を受け、「相続時精算課税制度」を父のみ選択し、母からの贈与は選択しなかった場合、翌年の贈与税の申告については、次のようになります。父からの贈与については、「相
続時精算課税制度」の申告書を提出し(初年度は選択届出書を添付)、母からの贈与については、従来の110万円非課税枠の申告書を提出するという2種類の贈与税の申告書を提出することになります。
(4) 「相続時精算課税制度」と「暦年課税」を上手に利用する方法
「相続時精算課税制度」には、贈与した人の相続財産に取り込まれるというデメリットがあります。
一方、従来からの110万円まで非課税の暦年課税は、相続開始前3年以内の贈与を除けば、相続財産に取り込まれることがなく切り離しが可能です。相続財産を贈与によって減らすという観点からは、暦年課税を利用したほうが確実な対策といえます。
父との間で「相続時精算課税制度」を選択すると、「暦年課税」は二度と利用できなくなります。ただ、母を利用して「暦年課税」と同じ効果を得ることは可能です。たとえば次のようなケースの場合があります。
[ケース] 父から、課税価額3,000万円の高収益のアパートと、父と息子と2人共同して経営する同族会社の株式を3,000万円贈与したいといわれている場合
父→「相続時精算課税制度」を選択し、アパートの贈与を受ける
母→「相続時精算課税制度」を選択せず、「暦年課税」
とし、同族会社の株式は、父から母へ通常の「暦年課税」を利用して贈与し、贈与を受けた母から当該株式を息子へ、同じく「暦年課税」を利用して贈与する。
自社株のように将来の評価が不確実な財産について相続財産に取り込まれる「相続時精算課税制度」を利用して贈与するのは、不安が残ります。このような場合、上記のように母を利用することにより、父からの「暦年課税」と同じ効果を得ることができます。