Q.「相続時精算課税制度」を利用して「土地」を贈与する場合の方法を教えてください。また相続が発生した場合は贈与した「土地」の扱いはどうなるのかを教えてください。
A.「土地」を贈与する場合は、贈与する時点での「土地」の相続税評価額を計算して贈与税を計算します。相続が発生したときは、贈与したときの価額を相続財産に加算して相続税を計算します。
(1) 贈与する財産の価額
「相続時精算課税制度」を適用して財産を贈与する場合の価額は、相続税を計算するときの相続税評価額です。具体的には、「財産評価基本通達」において定められている方法により計算します。
宅地を贈与する場合は、宅地の所在地により「路線価方式」又は「倍率方式」のどちらかになります。
(2) 相続が発生した場合
相続が発生した場合には、相続財産に「相続時精算課税制度」により贈与した価額を加算して相続税を計算します。この場合に加算する価額は、相続時の相続税評価額が贈与時の相続税評価額とかけ離れていても贈与の際に計算した価額となります。
「相続時精算課税制度」の適用例
【前提条件】相続人:配偶者、子供A、子供Bの計3名
土地以外の相続財産:3億円
贈与財産:土地4千万円
贈与方法:父→子供A
土地以外は法定相続分通りに取得するものとします。
★ パターン1 土地の価額が相続時に8,000万円になった場合(単位:千円)
相続人 | ①贈与した場合 | ②贈与しない場合 | ①-② |
---|---|---|---|
配偶者 子供A 子供B | 0 17,294 13,235 | 0 30,184 14,605 | −12,890 −1,370 |
贈与税 | 3,000 | 0 | 3,000 |
相続税・贈与税合計 | 33,529 | 44,789 | −11,260 |
★ パターン2 土地の価額が相続時に2,000万円になった場合(単位:千円)
相続人 | ①贈与した場合 | ②贈与しない場合 | ①-② |
---|---|---|---|
配偶者 子供A 子供B | 0 17,294 13,235 | 0 15,734 12,422 | 1,560 813 |
贈与税 | 3,000 | 0 | 3,000 |
相続税・贈与税合計 | 33,529 | 28,156 | 5,373 |
土地のように贈与時の価額と相続発生時の価額が大きく変わる場合には、相続時精算課税制度を適用すると不利になるケースがあります。上記のパターン②では土地の価額が半額になった場合には、精算課税制度を利用すると総額で5,373千円も税額が増加してしまいました。この影響は、相続時精算課税制度の適用を受けなかった他の相続人にも影響を与えることになります。子供Bは、子供Aの贈与により813千円も多く相続税を納めることになってしまっています。
(4) 民法の遺留分との関係
民法において、相続人には遺留分(子供については法定相続分の2分の1)という権利が定められています。この遺留分を超える贈与があった場合には、その贈与を受けた相続人に対して他の相続人は、遺留分の減殺請求ができます。従って、生前に相続財産の多くをこの制度を利用して贈与したとしても、相続発生時に他の相続人から減殺請求をされてしまえば、結局、贈与を受けた財産を返還するという状況も考えられます。また、この遺留分の計算上、贈与した財産の評価額は相続発生時の評価となりますので、贈与する際は、他の相続人の存在とこの遺留分という権利について併せて注意が必要です。